痛みにたいする私的考察 「私の丸印を見つけたい。」
2007年 01月 03日
昨年は年末にオフ会をやって痛み仲間の皆様にお会いできたり、初めての入院を経験したりして、なんだか久しぶりに痛みについて考えるようになりました。あらためて見つめてみれば、もう慢性疼痛と付き合って8年目。患者としては、
ベテランの域に達しています。
HPを開いた2年前に、なんとなく漠然と考えていたことをちょっと文章にしてみようかなあ。と思います。
昔私がテレビの世界で働いていたころ、障害のある子供たちの教育にかかわる番組をやっていて、自閉症児の療育施設を訪ねたことがある。その施設は難しい問題を抱えた自閉症の子供の発達を目覚しく助けるプログラムで知られていて、全国から療育にかかわる人々が見学に訪れてくる優秀な施設だった。
子供たちへの様々な取り組みの話をインタビューしながら、私は施設にいた子供たちの何割かが、一種独特の歩き方をするのに目を奪われていた。
あれはなんといったらいいのだろう。足の裏の筋肉が硬直したまま、まっすぐ伸ばせないので、足の先が反り返ったままよちよちとあひるのように歩いているのだ。
「あの歩き方は自閉症児の特徴のひとつなんですか?」
「そうです。あれはバビンスキー反射といって、有名な異常反射のひとつなんですよ。健康な子供は、ごく幼いころにあの反射が消失します。でも、あの子達は脳の機能に微少損傷があるといわれていて、脳から足の筋肉にいく命令系統のプログラムがうまく働かないんですね。だから問題は歩き方だけではありません。、常同運動といわれるチック症の発作のような手足の異常な動きをみな一様に抱えています。筋肉が自分の意思に反して動くので、あの子達はじっとしているのがとても苦手です。」
「そういう問題も、ここでは療育の対象にされるんでしょうか?」
「トライしています。たとえば学校など、じっとしていなければいけない場所でふらふらと動き回ってしまうということは反社会的な問題ですから、できれば治してあげたいと思って取り組んでいます。」
「どうやって・・・。」
「あの子達は、動こうと思って、動いているわけではないんですよ。筋肉の緊張や弛緩のプログラムがうまく働かないで勝手に動いてしまうんです。自閉症の子供は落ち着きがないからじっとしていられないんだ、と、知的、精神的な問題だとと片付けられることが多いんですけど、そうではなくて、体をじっとさせるプログラムがうまく働かない子供も多いんです。ああいう子供に、動いてはいけません。と100回言い聞かせても効果はありません。たとえば朝礼など、じっとしていなければならないときには、動いてはいけない、という代わりに、あの子達の周りに丸印を書いて、この丸から出ないようにしていなさい。と教えます。動かないように。という漠然とした命令ではなくて、具体的に目で見える丸を描いて教えるんです。そうすると、視覚から入ってきた情報に頼って自分の体を制御することができますから、じっとしていられるようになるんですね。時間はかかりますけれど。
それから、勝手に動いたり硬直したりしてしまっているあの子達の体に、直接マッサージをしてやったり、勝手にではなくて、意思的に筋肉を動かすような運動療法も取り入れたりしています。たとえば手をひらひらと動かしてしまうチックを抱えている子供には、団扇を持たせて正しい扇ぎ方を教えてあげるとか・・・。
そうすることによって、体の硬直が少しでも取れてリラックスすることが学習できますから。子供たちの療育は、様々なアプローチから行われなければいけないもので、簡単ではないんですけど、私たちは常に、ただ動かないようにといって叱りつけたり言い聞かせたりするのではなくて、あの子達にわかるやり方で間違ったプログラムを変えてあげられるような、出来るだけ科学的な方法を研究して療育を進めています。」
前置きがとても長くなってしまいました。
私は何を書こうとしているのかしら。。。。
8年前鞭打ちになって頚椎を痛めてから、ずいぶん長い間、私は激しい首や背中の筋肉の硬直や異常な痛みに日夜悩まされるようになった。
勝手にどんどん頚椎が左に即湾してしまって体が左に傾いたり、さらに鞭打ちから顎関節症になってひどい食いしばり発作が起きるようになったとき、たくさんの人がそうするように、私は最初に整形外科を訪ねた。
私を診療した医師たちは、みな一様にレントゲンをとっては、
「この痛みは椎間板がはみ出してヘルニアになってしまったからです。」
「鞭打ちによって頚椎がずれてしまって、その影響で関節円盤が損傷してしまったからいけないんです。」と
事故によって変形した私の体について説明してくれた。
もとよりドクターの言うことだから、その構造的説明を、私はもちろん信じてはいたのだった。けれどもそれはそれとしておいておいて・・・私はむしろ私自身の本能で、私の体に起こっている一番根本的な問題は、あの自閉症児の療育施設でたくさんの子供たちが抱えていた、異常な筋肉の痙攣や硬直・・常同運動といわれるチック症の発作のようなものではないか。
この激しい痛みは、何かしら自分の体をうまく動かすプログラムが故障していて、自在に動かせなくなる異常反射からくるのではないか。遠い昔に見た療育施設での、子供たちの姿を思い浮かべてはそう感じていた。
そうして、何とかしてその異常なプログラムを解除する手がかりとなるもの。子供たちにとっての 校庭に描かれた丸印と同じようなデリートスイッチを見つけたいと、切実に思っていた。
そんな風に私は無意識で、自分の体に起こった変化を自閉症児の抱えていた異常反射や常同運動と結びつけて考えていたので、オーストラリアで出会った医師たちが、慢性疼痛にたいして、うつ病や癲癇の薬や、時によっては注意多動性障害の薬をつかって治療したりするのも、すっきりと理解して、納得することができたのだった。
慢性疼痛の治療は、本当に難しいと思う。
自閉症児の療育と、もしかしたら同じくらい難しいものかもしれない。
いったん痛みを学習してしまった脳や筋肉を、まっさらな状態に戻して痛みや緊張を起こさないプログラムを学習しなおすのは、ひとつの治療や方法ではなかなかできない。
ましてや痛みに苦しむ患者さんに向かって、
「気の持ちようが弱いから痛みが治らないんですよ。」
「不安を説いて、リラックスしないと痛みは取れません。」「運動が大切なんです。」と、ただ闇雲に100回言い聞かせても、決して治らない。
痛くなりたいと思って痛んでいる人はいないのだから、その人にとっての丸印をみつけてあげないことには、治っていくプログラムを学習できないと思う。
そしてその丸印は人によって違う。
異常な緊張やチック症状を治療するのに、私のように薬物がどうしても必要な人も多いと思うし、
マッサージや運動で、筋肉の緊張をとってあげるのも絶対必要だと思う。
加茂先生が実践していらっしゃるような、トリガーポイント注射で痛みを取り除いく治療も、とても効果的だと思うし、
三節先生の鍼のような、経絡に沿って自立神経の緊張を取り除く治療も、素晴らしいと思う。
自分自身の内的なストレスと向き合って、不安や恐怖を取り除いて気づきを促す、たとえば「腰痛は怒りである」という本で有名な、TMSジャパンの提唱する認知行動療法的なアプローチも、きっととても大切だ。
たぶんひとつの方法で完全に治るというのは難しいのだと思うし、人によって一番効果のある方法も違うのだろうと思う。だから、痛みの治療はいつもオーダーメイド、治療者に任せるだけではなくて、ひとりひとりが自分の丸印を見つける努力をするのもきっと、大切なんだろうな。とも思う。
2年前HPを開いたとき、わたしは漠然とだけれど、痛みに関するたくさんの情報を集めて、訪れてくる患者さんが、自分の丸印を見つけられるような、バーチャルペインマネジメントセンターのようなページを作れたらいいな。と思っていた。
今は、私だけの力ではそれはできないことに気がついて、ブログの記事やリンクでたくさんの治療者や患者さんを結んで勉強をさせていただいて、折々に感じたことを文章にしている。自分にできることはとても微力だけれど。。
今年の私の目標は、できればお薬にあまり頼ることなく、運動や認知行動療法で、私の丸印をみつけてもっともっと健康になること。そうして、オフ会で出会ったたくさんのお友達と一緒に、みんなの丸印をみつけていけたらいいな。と思っている。
ご訪問くださった皆様。新年早々、長文を読んでくださってありがとうございます。
今年もよろしくお願いしますね!
ベテランの域に達しています。
HPを開いた2年前に、なんとなく漠然と考えていたことをちょっと文章にしてみようかなあ。と思います。
昔私がテレビの世界で働いていたころ、障害のある子供たちの教育にかかわる番組をやっていて、自閉症児の療育施設を訪ねたことがある。その施設は難しい問題を抱えた自閉症の子供の発達を目覚しく助けるプログラムで知られていて、全国から療育にかかわる人々が見学に訪れてくる優秀な施設だった。
子供たちへの様々な取り組みの話をインタビューしながら、私は施設にいた子供たちの何割かが、一種独特の歩き方をするのに目を奪われていた。
あれはなんといったらいいのだろう。足の裏の筋肉が硬直したまま、まっすぐ伸ばせないので、足の先が反り返ったままよちよちとあひるのように歩いているのだ。
「あの歩き方は自閉症児の特徴のひとつなんですか?」
「そうです。あれはバビンスキー反射といって、有名な異常反射のひとつなんですよ。健康な子供は、ごく幼いころにあの反射が消失します。でも、あの子達は脳の機能に微少損傷があるといわれていて、脳から足の筋肉にいく命令系統のプログラムがうまく働かないんですね。だから問題は歩き方だけではありません。、常同運動といわれるチック症の発作のような手足の異常な動きをみな一様に抱えています。筋肉が自分の意思に反して動くので、あの子達はじっとしているのがとても苦手です。」
「そういう問題も、ここでは療育の対象にされるんでしょうか?」
「トライしています。たとえば学校など、じっとしていなければいけない場所でふらふらと動き回ってしまうということは反社会的な問題ですから、できれば治してあげたいと思って取り組んでいます。」
「どうやって・・・。」
「あの子達は、動こうと思って、動いているわけではないんですよ。筋肉の緊張や弛緩のプログラムがうまく働かないで勝手に動いてしまうんです。自閉症の子供は落ち着きがないからじっとしていられないんだ、と、知的、精神的な問題だとと片付けられることが多いんですけど、そうではなくて、体をじっとさせるプログラムがうまく働かない子供も多いんです。ああいう子供に、動いてはいけません。と100回言い聞かせても効果はありません。たとえば朝礼など、じっとしていなければならないときには、動いてはいけない、という代わりに、あの子達の周りに丸印を書いて、この丸から出ないようにしていなさい。と教えます。動かないように。という漠然とした命令ではなくて、具体的に目で見える丸を描いて教えるんです。そうすると、視覚から入ってきた情報に頼って自分の体を制御することができますから、じっとしていられるようになるんですね。時間はかかりますけれど。
それから、勝手に動いたり硬直したりしてしまっているあの子達の体に、直接マッサージをしてやったり、勝手にではなくて、意思的に筋肉を動かすような運動療法も取り入れたりしています。たとえば手をひらひらと動かしてしまうチックを抱えている子供には、団扇を持たせて正しい扇ぎ方を教えてあげるとか・・・。
そうすることによって、体の硬直が少しでも取れてリラックスすることが学習できますから。子供たちの療育は、様々なアプローチから行われなければいけないもので、簡単ではないんですけど、私たちは常に、ただ動かないようにといって叱りつけたり言い聞かせたりするのではなくて、あの子達にわかるやり方で間違ったプログラムを変えてあげられるような、出来るだけ科学的な方法を研究して療育を進めています。」
前置きがとても長くなってしまいました。
私は何を書こうとしているのかしら。。。。
8年前鞭打ちになって頚椎を痛めてから、ずいぶん長い間、私は激しい首や背中の筋肉の硬直や異常な痛みに日夜悩まされるようになった。
勝手にどんどん頚椎が左に即湾してしまって体が左に傾いたり、さらに鞭打ちから顎関節症になってひどい食いしばり発作が起きるようになったとき、たくさんの人がそうするように、私は最初に整形外科を訪ねた。
私を診療した医師たちは、みな一様にレントゲンをとっては、
「この痛みは椎間板がはみ出してヘルニアになってしまったからです。」
「鞭打ちによって頚椎がずれてしまって、その影響で関節円盤が損傷してしまったからいけないんです。」と
事故によって変形した私の体について説明してくれた。
もとよりドクターの言うことだから、その構造的説明を、私はもちろん信じてはいたのだった。けれどもそれはそれとしておいておいて・・・私はむしろ私自身の本能で、私の体に起こっている一番根本的な問題は、あの自閉症児の療育施設でたくさんの子供たちが抱えていた、異常な筋肉の痙攣や硬直・・常同運動といわれるチック症の発作のようなものではないか。
この激しい痛みは、何かしら自分の体をうまく動かすプログラムが故障していて、自在に動かせなくなる異常反射からくるのではないか。遠い昔に見た療育施設での、子供たちの姿を思い浮かべてはそう感じていた。
そうして、何とかしてその異常なプログラムを解除する手がかりとなるもの。子供たちにとっての 校庭に描かれた丸印と同じようなデリートスイッチを見つけたいと、切実に思っていた。
そんな風に私は無意識で、自分の体に起こった変化を自閉症児の抱えていた異常反射や常同運動と結びつけて考えていたので、オーストラリアで出会った医師たちが、慢性疼痛にたいして、うつ病や癲癇の薬や、時によっては注意多動性障害の薬をつかって治療したりするのも、すっきりと理解して、納得することができたのだった。
慢性疼痛の治療は、本当に難しいと思う。
自閉症児の療育と、もしかしたら同じくらい難しいものかもしれない。
いったん痛みを学習してしまった脳や筋肉を、まっさらな状態に戻して痛みや緊張を起こさないプログラムを学習しなおすのは、ひとつの治療や方法ではなかなかできない。
ましてや痛みに苦しむ患者さんに向かって、
「気の持ちようが弱いから痛みが治らないんですよ。」
「不安を説いて、リラックスしないと痛みは取れません。」「運動が大切なんです。」と、ただ闇雲に100回言い聞かせても、決して治らない。
痛くなりたいと思って痛んでいる人はいないのだから、その人にとっての丸印をみつけてあげないことには、治っていくプログラムを学習できないと思う。
そしてその丸印は人によって違う。
異常な緊張やチック症状を治療するのに、私のように薬物がどうしても必要な人も多いと思うし、
マッサージや運動で、筋肉の緊張をとってあげるのも絶対必要だと思う。
加茂先生が実践していらっしゃるような、トリガーポイント注射で痛みを取り除いく治療も、とても効果的だと思うし、
三節先生の鍼のような、経絡に沿って自立神経の緊張を取り除く治療も、素晴らしいと思う。
自分自身の内的なストレスと向き合って、不安や恐怖を取り除いて気づきを促す、たとえば「腰痛は怒りである」という本で有名な、TMSジャパンの提唱する認知行動療法的なアプローチも、きっととても大切だ。
たぶんひとつの方法で完全に治るというのは難しいのだと思うし、人によって一番効果のある方法も違うのだろうと思う。だから、痛みの治療はいつもオーダーメイド、治療者に任せるだけではなくて、ひとりひとりが自分の丸印を見つける努力をするのもきっと、大切なんだろうな。とも思う。
2年前HPを開いたとき、わたしは漠然とだけれど、痛みに関するたくさんの情報を集めて、訪れてくる患者さんが、自分の丸印を見つけられるような、バーチャルペインマネジメントセンターのようなページを作れたらいいな。と思っていた。
今は、私だけの力ではそれはできないことに気がついて、ブログの記事やリンクでたくさんの治療者や患者さんを結んで勉強をさせていただいて、折々に感じたことを文章にしている。自分にできることはとても微力だけれど。。
今年の私の目標は、できればお薬にあまり頼ることなく、運動や認知行動療法で、私の丸印をみつけてもっともっと健康になること。そうして、オフ会で出会ったたくさんのお友達と一緒に、みんなの丸印をみつけていけたらいいな。と思っている。
ご訪問くださった皆様。新年早々、長文を読んでくださってありがとうございます。
今年もよろしくお願いしますね!
by elly_mylove
| 2007-01-03 20:55
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